この記事は、2026年3月19日に開催された「データ界隈100人カイギ vol.4 オープンデータ会」での登壇内容を、Qiita用に記事としてまとめたものです。
こんにちは、株式会社カオナビの本江(@Yuto_Hongo)です。
私は普段、社内のデータ基盤運用や活用を主軸とする「クローズドデータ」の世界で活動していますが、その一方で、有価証券報告書(有報)というオープンデータを活用したデータベースサービス「人的資本データnavi」の運営も行っています。
今、日本は人的資本開示の義務化によって、いわば**「オープンデータのゴールデンタイム」**を迎えています。しかし、多くの企業にとってこの開示は「義務を果たすための作業」に留まっているのが実情です。
私たちはこの状況を変え、データをより良い会社作りをするための**「武器」**に変えたいと考えています。本記事では、その想いと、4,000社のデータを収集・解析する技術的な裏側についてご紹介します。
世界的な投資の流れは、人を「コスト」ではなく「資本(価値の源泉)」と捉える方向へ劇的に変化しています。
これにより、女性管理職比率、男性育休取得率、男女間賃金差異といったデータが、すべての投資家や求職者にオープンになりました。まさに、データ活用側にとっては千載一遇のチャンスが到来しています。
しかし、いざデータが公開されても、企業担当者からは戸惑いの声が上がっています。
例えば、自社の女性管理職比率が「15%」と出たとき、担当者はこう悩みます。 「この15%という数字は、果たして誇れる数字なのか? それとも早急に改善すべき数字なのか?」
有報には自社の数字は載っていますが、「業界平均」や「競合他社の進捗」 を網羅的に把握する手段が乏しいため、自分たちの立ち位置(ベンチマーク)がわからず、適切な目標設定ができないのです。
この「比較できない」という課題を解決するために立ち上げたのが、「人的資本データnavi」です。
「数字を出すだけで終わり」にするのではなく、他社と比較して「自社の強み・弱み」を正しく認識し、より良い組織を目指すためのスタートラインを作ることが私たちのミッションです。
ここからは、実際に約4,000社のデータをどうやって収集しているかという、技術的な苦労話です。
EDINETからはCSVも配布されていますが、実は**「任意の開示指標」については項目値が用意されていないケースが多々あります。また、最大の問題はデータの品質**です。
有報のシステム上、改行やスペースをトリムしてCSV化する際に、**「2つの数字がくっついてしまう(例: 10.5 12.0 → 10.512.0)」**といった現象が発生します。これを機械的に分離するのは、従来の形態素解析では非常に困難です。
そこで私たちは、CSVではなくPDFの原文をベースに、LLMを活用してデータを抽出するアプローチを採っています。特に苦戦したのが「セル結合された複雑な表」です。
LLMにそのまま表を投げても精度が出ないため、以下のような「AIに優しい前処理」を徹底しました。
LLMによる自動化でコストと速度を大幅に改善しましたが、情報の正確性は譲れません。私たちは、AIによる抽出 → 専門スタッフによる全件目視チェック というフローを構築し、高い精度を維持しています。
データを公開することはゴールではありません。
このサイクルを回すためのエネルギー源として、オープンデータは存在します。 「人的資本データnavi」が、より良い会社作りを目指す皆さんの背中を「ぽんっ」と押せる存在になれば幸いです。
これからも、誰もがデータを武器にできる世界を目指して、オープンデータを耕し続けていきます。
